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ばあさんの生き甲斐はオレだけだからな、オレが死んだらばあさんは死ぬだろうな。いや、あの息子と娘たちに殺されるかもな。悲嘆に暮れる年寄りくらいなら、奴らにだってヤれるだろう。
ばあさんは心底、優しいというのに、奴らはいつも腹黒い顔でしか笑えない。あのばあさんからどうしてあんな愚鈍な間抜けが生まれたんだ? ばあさんの財産を計算して、ついでに残りの命も計算してやがる。そのくせ、自分たちは何も出来ずにおどおどしてばかりだ。
そんなに金が欲しいのなら、とっととばあさんを殺せばいいものを。毎日飲ませているあの薬をひとつ取り違えるだけで、きっと楽に逝ってしまうだろうに。車椅子を誤って少し押し出せば、あのスピード狂が轢き殺してくれるだろうに。
その後で、ゆっくり嘘泣きをすればいい。どうしてこんなに早く亡くなったんだ、と泣いて、笑い狂えばいいものを。
奴ら、そんなこともできないなんて、臆病過ぎるぜ。

けど、オレは奴らが嫌いじゃないんだよな。
オレはばあさんが大嫌いなんだよ。

善人面した善人のばあさんに撫でられるのなんて、反吐が出るほど真っ平、嫌いなんだよ。ただ、オレは奴らよりも賢いからな、うまく尾を振ってやるのさ。嬉しくてたまらないっていう風に。ばあさんのさみしさを理解しているのはオレしかいないっていう風に。

そうして、今のばあさんはもう、オレなしでは生きていけなくなった。
そろそろだな。

奴らがいつまでもばあさんを殺せないでいるから、オレがばあさんを殺してやるのさ。善人面した善人のばあさん。オレが死んだら、きっとオレに墓をくれるんだろうな。オレを殺したヤツらさえ赦して、善人面して泣くんだろうな。

そうしてそのまま泣きくたびれて死ねばいい。
いいざまだ。

そら、ちょうどスピード狂がやって来たぜ。あの車の下敷きになれば、ようやくオレはばあさんから解放される。そして、あのばあさんを殺すことが出来るんだ。

車が飛び跳ねた。
さあ、今だ。

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「そんなに飛ばしたら危ないわよ」

後部座席から私は言った。
ゲラゲラ笑っていたけれど、本気でスピードを落として欲しいと思っていた。

このままだときっと轢いてしまうわ

けれど車のスピードは上り続け、車内の笑い声と熱気も上り続けた。
高速道路の出口を抜けると、私たちは坂道を下り始めていた。

アイツ、ブレーキとアクセルを間違えてるんじゃないの?

そう思ったとき、車体がワンバウンドして宙を舞った。
車内はより一層けたたましく、彼も彼女もバカみたいに叫んでいる。

私の視界の右端を、何かが、過ぎった。
小さな、疲れた気配の、何か。

あ、と思ったとき、車は地面に着地して、赤信号をひとつ無視してから、ようやく停まった。
車内のバカ騒ぎは止む気配を見せず、ハイなテンションはどこまでも上り続けている。

「ちょっと。もう、やめてよね」

そう言いながら私は怯み始めていた。ゲラゲラ笑いながら。

開け放った窓に肘掛けた私の白い手の甲に、赤い雫が付いていた。
黒いマニキュアよりも赤い。
車が着地したとき、お尻で何かを押し潰した感触が、私の下半身にまだ残っている。

どうして、私だけ?

泣きたい気持ちで、忘れようと私は必死で笑った。

「それ、毒キノコでしょう? 僕にもちょうだい。」

私が齧っていたのを彼に見られた。
さっきまで私ひとりだと思っていたのに

「食べたら死ぬの?」
「そうよ。食べたら死ぬの。」

私の秘密。
見られたのは悔しかったけれど、こんなキノコどこにでもあるわ

「いいわ、あげる。けれど死んでしまうから食べてはいけないわよ。」
「ああ、分かった。」

彼は嬉しそうにキノコを手にした。
美味しそうな、けれど、毒々しいグロテスクなキノコ。

どこまでも透明に微笑む彼は、生きたくないみたいだった
死にたいと思ってはいないみたいだけれど

「それで、君はいつ死ぬの?」
「毒が効いたら。」

絶望しているのね
彼はいつ食べるのかしら?

*

「死なないじゃないか。」
「食べたのね。」
「ああ。けれど死ぬというのは嘘だね。」
「そうよ。こんなキノコで死ぬ訳ないじゃない。」
「やはり、そうだったんだね。」

「けれど良い夢を見られるわ。」

彼は笑った。
現実を見ない目だった。

それから彼女は彼を抱きかかえて崖を上った。
彼は眠っているように静かだった。
笑っていたけれど。
彼女は悲しそうだったけれど。

「もう、腕が千切れそう。」

彼女が彼の体重を支えきれないと思ったとき、崖の突端に辿り着いた。

「じゃあ、僕を離せば良いじゃないか。」
「そうするわ。その為にここまで来たんだから。」

彼女は彼の体を放り投げた。
崖の下に落ちていく彼は笑っていた。

「だから毒キノコだって言ったじゃない。」

「ありがとう。」

「良い夢を。」

彼も望み通りに死ねたみたいね
私はいつ死ねるのかしら?
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