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「そんなに飛ばしたら危ないわよ」

後部座席から私は言った。
ゲラゲラ笑っていたけれど、本気でスピードを落として欲しいと思っていた。

このままだときっと轢いてしまうわ

けれど車のスピードは上り続け、車内の笑い声と熱気も上り続けた。
高速道路の出口を抜けると、私たちは坂道を下り始めていた。

アイツ、ブレーキとアクセルを間違えてるんじゃないの?

そう思ったとき、車体がワンバウンドして宙を舞った。
車内はより一層けたたましく、彼も彼女もバカみたいに叫んでいる。

私の視界の右端を、何かが、過ぎった。
小さな、疲れた気配の、何か。

あ、と思ったとき、車は地面に着地して、赤信号をひとつ無視してから、ようやく停まった。
車内のバカ騒ぎは止む気配を見せず、ハイなテンションはどこまでも上り続けている。

「ちょっと。もう、やめてよね」

そう言いながら私は怯み始めていた。ゲラゲラ笑いながら。

開け放った窓に肘掛けた私の白い手の甲に、赤い雫が付いていた。
黒いマニキュアよりも赤い。
車が着地したとき、お尻で何かを押し潰した感触が、私の下半身にまだ残っている。

どうして、私だけ?

泣きたい気持ちで、忘れようと私は必死で笑った。

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