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「それ、毒キノコでしょう? 僕にもちょうだい。」

私が齧っていたのを彼に見られた。
さっきまで私ひとりだと思っていたのに

「食べたら死ぬの?」
「そうよ。食べたら死ぬの。」

私の秘密。
見られたのは悔しかったけれど、こんなキノコどこにでもあるわ

「いいわ、あげる。けれど死んでしまうから食べてはいけないわよ。」
「ああ、分かった。」

彼は嬉しそうにキノコを手にした。
美味しそうな、けれど、毒々しいグロテスクなキノコ。

どこまでも透明に微笑む彼は、生きたくないみたいだった
死にたいと思ってはいないみたいだけれど

「それで、君はいつ死ぬの?」
「毒が効いたら。」

絶望しているのね
彼はいつ食べるのかしら?

*

「死なないじゃないか。」
「食べたのね。」
「ああ。けれど死ぬというのは嘘だね。」
「そうよ。こんなキノコで死ぬ訳ないじゃない。」
「やはり、そうだったんだね。」

「けれど良い夢を見られるわ。」

彼は笑った。
現実を見ない目だった。

それから彼女は彼を抱きかかえて崖を上った。
彼は眠っているように静かだった。
笑っていたけれど。
彼女は悲しそうだったけれど。

「もう、腕が千切れそう。」

彼女が彼の体重を支えきれないと思ったとき、崖の突端に辿り着いた。

「じゃあ、僕を離せば良いじゃないか。」
「そうするわ。その為にここまで来たんだから。」

彼女は彼の体を放り投げた。
崖の下に落ちていく彼は笑っていた。

「だから毒キノコだって言ったじゃない。」

「ありがとう。」

「良い夢を。」

彼も望み通りに死ねたみたいね
私はいつ死ねるのかしら?
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