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それからは休日の度に自転車で通った。
寒い日々で、もう少し暖かくなれば客足も増えるのに、とオーナーが言っていた。思った以上に儲からない、これならコンビニバイトの方が良かったかも知れない、煙たい部屋で僕はそう考えていた。
部屋には名前も知らない男の子たちがいっぱいで、みんな煙草を喫っていた。このうちの誰かと、今、キスをしたら煙草の味しかしないと思って眺めていた、それでも良いと思った。キスをしようと思ったけれど、しなくても分かると思った。
客が来る度に出て行き、戻ってくる。戻ってきたら、その都度、お疲れさま、と言い合い、いったいどんなことをどんな風にしているのだろうと僕は考えていた。彼らの笑顔からは一片の陰湿さも感じ取れなかった。
僕の初めてのときも大したことはなかった。こんなものかと思った。ただ時間が早く過ぎればいいと、行為の途中もずっと時計を盗み見てばかりいた。いやらしくたるんだ中年男はやさしかった。
その頃、ハルシオンは眠るためではなく、落ち着くためだけにのんでいた。ちっとも眠くならなかったし、安心もしなかったけれど、心の棘がしばらくの間だけ滑らかになるような気がした。ホテルで泊りの客の飲みものに砕いて溶かしたことがある。早く眠って欲しいと思うのと、どうなるのだろうかと試してみたかったのと。その足どりは覚束なくなってしまったけれど、結局、最後まですることになった。こんなことに使って勿体ないと思った。ただ、薬を切らすことは恐怖だったので、欠かすことはなかったけれど(無くなる前に必ず病院に通っていた)。
夕日の下で2駅分の道を歩くとき、アルバイト明けに夜の街、自転車のペダルを漕ぐとき、不意に泣きたくなり、その度にハルシオンを飲み下した。泣きたいのか笑いたいのか、どうしたいのか何も分からない。ただ目前に現れることをこなしていくだけだった。
清潔な嘘吐きの笑顔は、そのときも今も得意だ。