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左手首を薄く切る。カッターナイフが冷たくて心地良い。血が滲んで流れ出す。けれど、ティッシュペーパーで押えればすぐにとまってしまう、その程度の薄い傷だ。血が止まるのが、しかし何だかさみしくて、また薄く切る。
毎朝、誰もいないフロアでそんなことを繰り返していた。傷跡をみれば安心できた。血が流れるのをみれば安心できた。
それだけだった。
痛痒い自分の手首をみつめて、これを誰かに見付けられるのを待っていた。
毎朝5:00前に起き、始発直後の電車で通勤していた。周囲はいつもの見慣れた顔だ。いつも通りの駅で、いつも通りに車内が混み合う。
手首を切りたくなった。
けれど車内でカッターを出す訳にもいかず、吊り輪をもつ左腕に爪を立てた。皮膚の下で血が滲んで赤くなった。痛かった。ここにいるのは僕だと思った。もう一度爪を立てた。
僕の両腕には爪のかたちの青痣が広がっていた。
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